甲府地方裁判所 昭和54年(ワ)290号
原告
尾沢昭男
右訴訟代理人弁護士
関本立美
同
寺島勝洋
同
加藤啓二
被告
相互タクシー株式会社
右代表者代表取締役
西中山岳
右訴訟代理人弁護士
八木良夫
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 原告が被告の従業員たる地位を有することを確認する。
2 被告は、原告に対し、金六〇一万八五〇円及び昭和五七年九月以降毎月二九日限り月額金一二万七九四〇円の金員を支払え。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二当事者の主張
一 請求の原因
(原告の地位等)
1 被告は、肩書住所地に本店を有し、一般乗用旅客自動車運送事業等を営む株式会社であるところ、昭和四一年一二月五日、原告を乗務員として雇傭した。
2 被告は、昭和五四年五月二三日以降原告との雇傭関係を争っている。
3(一) 原告は、訴外相互タクシー労働組合(以下「訴外組合」という。)の組合員であるところ、昭和五四年五月当時金一二万円の平均賃金を受けていたが、被告と訴外組合との間で、訴外組合の組合員の賃金について、同月一七日、三五四〇円、昭和五五年六月二四日、一四〇〇円、昭和五六年五月二五日、三〇〇〇円、昭和五七年六月四日、二五〇〇円、それぞれ各年度の四月に遡って一率に引上げる旨の労働協約が締結された。以上によって昭和五四年五月から昭和五七年八月まで受領すべき賃金は次の通りとなった。
(1) 昭和五四年五月から昭和五五年三月まで、毎月一二万三五四〇円、合計一三五万八九四〇円
(2) 同年四月から昭和五六年三月まで、毎月一二万四九四〇円、合計一四九万九二八〇円
(3) 同年四月から昭和五七年三月まで、毎月一二万七九四〇円、合計一五三万五二八〇円
(4) 同年四月から同年八月まで、毎月一三万〇四四〇円、合計六五万二二〇〇円
(二) さらに、原告が受領すべき一時金は次の通りである。
(1) 昭和五四年度 二六万一〇〇〇円
(2) 昭和五五年度 二七万四〇〇〇円
(3) 昭和五六年度 二九万二〇〇〇円
(4) 昭和五七年度 一三万八一五〇円
(三) 従って、昭和五七年八月末現在において原告が被告から受領すべき賃金及び一時金の合計は、金六〇一万八五〇円となる。
4 よって、原告は、原告が被告の従業員たる地位を有することの確認と、被告が原告に対し、昭和五四年五月から昭和五七年八月までの受領すべき賃金及び一時金合計六〇一万八五〇円及び昭和五七年九月以降毎月二九日限り月額一二万七九四〇円の賃金を支払うことを求める。
二 請求の原因に対する認否
1 請求の原因1、2は認める。
2(一) 同3(一)のうち、原告が訴外組合の組合員であること、被告と訴外組合との間で、訴外組合の賃金について、昭和五四年五月一七日、三五四〇円、昭和五五年六月二四日、一四〇〇円、昭和五六年五月二五日、三〇〇〇円、それぞれ各年度の四月に遡って一率に引上げる旨の、また、昭和五七年六月四日、同年六月以降について二五〇〇円引上げる旨の労働協約が締結されたことは認め、その余は否認する。昭和五四年五月当時の原告の平均賃金は一一万四二四七円である。昭和五七年四月及び五月の賃金引上額は二〇〇〇円である。同3の(二)は否認する。原告の一時金の額は、昭和五四年度においては、二三万八二一六円、昭和五五年度においては、二四万八八五九円、昭和五六年度においては、二六万三四一五円、昭和五七年度の夏季一時金の額は一二万四五八二円である。同3の(三)は争う。
3 同4は争う。
三 抗弁
1 懲戒解雇
(一) 原告は、昭和五四年四月一四日午前二時三五分ころ甲府市中小河原町四〇四の一番地南甲府警察署前において飲酒の上、アルコールの影響により正常な運転ができないおそれのある状態で原告所有の普通乗用自動車を運転し、道路左端に停車中の大型トラックに追突し、さらにその反動で同町四〇三番地山梨総合高等職業訓練校の東側囲障に衝突して右トラックの後部及び右囲障を破損させ、自らの自動車も大破する事故(以下「本件事故」という。)を起こしたということで、同年五月九日甲府簡易裁判所において、略式命令をもって道路交通法違反(酒酔い運転及び安全運転義務違反)の罪で罰金五万円に処せられ同命令は確定した。
(二) 被告の就業規則四二条一〇号には「罰金刑以上の刑罰法令にふれる行為のあったもの」は懲戒解雇する旨の規定がある。
(三) よって、被告は、昭和五四年五月二三日、原告に対し、右就業規則四二条一〇号に該当することを理由として懲戒解雇する旨の意思表示をなし、右意思表示は、そのころ原告に到達した(以下「本件解雇」という)。
2 普通解雇
仮に懲戒解雇が認められないとしても前記1(三)の懲戒解雇の意思表示には、労働基準法二〇条の普通解雇の意思表示を含んでいる。
四 抗弁に対する認否
1(一) 抗弁1(一)は認める。但し実際には原告は酒酔い運転をしたものではなく、単に酒気帯び運転をしたに過ぎないものである。
(二) 同1(二)は認める。
(三) 同1(三)は認める。
2 同2は否認する。
五 再抗弁
1 不当労働行為
(一) 原告は、昭和四五年五月、訴外組合結成と同時に執行委員に選出され、同年一一月訴外組合の書記長になり、昭和五〇年九月以降本件解雇に至るまで訴外組合の執行委員長を務めるなど、訴外組合の中心となって活動してきた。
(二) また、原告は、昭和五〇年一一月、訴外組合の上部団体である全国自動車交通労働組合山梨地方連合会副委員長となり、昭和五一年、右労働組合分裂後、全国自動車交通労働組合総連合会(当時の略称全自交共闘会議)山梨地方連合会(以下「自交総連山梨地連」という。)書記長を務め、本件解雇時においても同書記長であって、山梨県のハイヤータクシー労働組合運動の中心人物の一人であったところ、山梨県内において、自交総連に加盟するハイヤータクシー労働者の労働組合結成が相次ぎ、また自交総連傘下の労働組合の賃上げ闘争は激しかったことなどから、原告は、被告経営者のみならず、甲府市内のハイヤータクシー会社の経営者の団体である甲府ハイヤー協議会の幹部にも注目されていた。
(三) 以上のようなことからすると被告は本件事故に籍口し、原告が訴外組合の執行委員長、自交総連山梨地連の書記長等として労働組合の正当な行為をしたことを理由として、原告を解雇したものであって、本件解雇は不当労働行為に当り無効である。
2 解雇手続の不履行
被告が訴外組合の組合員に対し懲戒処分をなす場合には、訴外組合結成以来、訴外組合との協議をし、その協議に基づいて懲戒処分を行なってきており、懲戒処分に際しては、訴外組合との協議の上、その同意を得て決定することが被告と訴外組合との間の労使慣行として確立されており、また、一般的にみても、不利益処分を為すには、被処分者に十分弁明の機会を与える必要があることは明らかであるところ、本件解雇において、被告は、一応原告から事情聴取し、訴外組合とも本件解雇について協議したが、それは形ばかりのもので、実質的には原告から事情聴取し、訴外組合と協議する以前に解雇を決定していたものであって、本件解雇に際し、原告に弁明の機会を与え、訴外組合と協議したとはいえないから、本件解雇は、被告、訴外組合間の労使慣行、不利益処分をなす場合の一般原則に違反し、無効である。
3 就業規則違反
被告の就業規則四〇条四項には、被告が従業員を懲戒免職する場合、「予告期間をおかないで監督署長の認定をうけ直ちに解雇する。」旨の規定があり、労働基準監督署長の認定を受けることが懲戒解雇の効力発生要件であるところ、被告は、本件解雇に際し、右認定を受けていないから、本件解雇は無効である。
4 解雇権の濫用
(一) 本件事故の態様、本件事故における原告の責任、本件事故により被告に与えた損害、及びその他の影響等は、左記の理由からいずれも軽微である。
(1) 原告は、飲酒はしたが、飲酒の後、約五時間休息したので酔いはさめたものと思って車を運転したもので、酒気帯び運転であるとの認識すらなく、まして酒酔運転ではない。また、原告にとり初めての酒気帯び運転である。
(2) 原告は、本件事故により、第三者に対し物的損害を与えたが、その賠償は完了している。
(3) 原告は公安委員会から酒気帯びとして免許停止の行政処分を受け、現実に四五日間運転することができなかったもので、本件事故を惹起したことによる制裁の一端は受けている。
(4) 原告も本件事故を深く反省している。
(5) 本件事故は、原告が公休日に、私用で自己所有の車を運転中起こしたものであって、被告や客に対し、全く損害を与えていない。
(6) 本件事故は、新聞、テレビ等で全く報道されておらず、本件事故により、被告の社会的信用等には影響がなかった。
(二) 本件懲戒解雇は、他の懲戒事例との比較においても重きに失する。
(1) 被告の左記のとおりの処分例からみても極端に厳しい。
<一> 被告従業員奥村栄善(組合員)は、昭和四六年三月中旬頃甲府市城東地内でタクシーメーター不倒行為を行い、同年ころ河野営業課長と口論していた際仲裁に入った末木副社長をつきとばし、また他の従業員(非組合員)とけんかをして同人に対し顔面に負傷(「全治一週間」)を負わせたが、副班長から平従業員へ一年間降格、三日間の出勤停止という処分であった。
<二> 被告従業員中込信吉(非組合員)は、昭和四七年二月ころの公休日に、甲府市中央一丁目路上で酒に酔い自家用車を運転し事故を起し、相手の車両に損傷を与えたが末木副社長が仲に入り示談をまとめ、会社は右中込に対し一切処分はしなかった。
<三> 五味勝男(非組合員)は、昭和五三年一二月、甲府市朝日町地内で乗客を乗車させる際、ドアで左足を負傷させ右傷の手当のため共立病院(甲府市宝一丁目所在)に行き、右乗客から「治療する間持っていてくれ。」と言われたにもかかわらず、タクシー料金ももらわずその場から走り去り、さらに右乗客が、その件を会社に届出たところ、最初は事実そのものを否認し、次に「なんだお前会社にまで来て、お前は当り屋か、金が欲しいのか」等と暴言をはいたが、処分はなく、始末書提出のみであった。
(2) 同業他社の例からみても、「酒飲み運転・ひき逃げ」事件として報道された事例でさえ、配置転換・降格処分というものである。
(3) 山梨県内において、教育職や県庁職員による本件と同種又はさらに違法性も強く一般に報道されるなど影響も大きいと思われる行為についても、本件解雇時点では、停職処分が最も厳しく、解雇事例は一件もない。
(三) 被告就業規則四二条但書には、懲戒免職に該当する事由があっても、情状によっては謹慎減給にとどめることがある旨の規定が存するところ、原告の本件事故については、右に述べた事情から右但書を適用して原告を謹慎減給にとどめるべきであったにもかかわらず、解雇したものであって、本件解雇は重きに失し、解雇権の濫用であって無効である。
六 再抗弁に対する認否
1 再抗弁1のうち、(一)は認める。(二)は不知。(三)は否認する。
2 同2は否認する。
3 同3のうち、被告の就業規則に原告主張の条項があること及び被告が、本件解雇につき、労働基準監督署長の認定を受けてないことは認め、その余は、否認する。
右条項は、被告の従業員に懲戒解雇を相当とする事由が存在する場合、被告が懲戒解雇権を行使することを自ら制限したものではなく、労働基準法二〇条三項の規定の趣旨を単に記載したに過ぎないところ、同条項にいう労働基準監督署長の除外認定処分は、解雇の効力発生要件でなく、単なる事実確認処分であるから、右認定処分を経ないからといって、本件解雇の効力自体には影響がない。
4 同4はすべて争う。
第三証拠(略)
理由
一 原告の地位
請求の原因1及び2の各事実は当事者間に争いがない。
二 本件解雇
抗弁1の(一)ないし(三)の各事実は当事者間に争いがない。原告は、実際には酒気帯び運転をしたにすぎず、酒酔い運転をしたものではない旨主張するが、道路交通法によれば、右いずれの違反をしたにしても、法定刑は罰金刑以上であるから、原告は就業規則四二条一〇号の懲戒解雇事由に当るものといわなければならない。
三 そこで、原告の再抗弁について検討する。
1 不当労働行為
再抗弁1(一)の事実は当事者間に争いがなく、また、(人証略)の証言及び原告本人尋問の結果によれば、同1(二)の事実を認めることができる。
しかしながら、原告が就業規則四二条一〇号の懲戒解雇事由に該当するものであること前示認定のとおりである以上、原告の再抗弁1の(一)(二)のような事実が認められるとしても、このことをもって被告が本件事故に藉口し、原告が訴外組合の執行委員長、自交総連山梨地連の書記長等として労働組合の正当な行為をしたことを理由として、原告を解雇したものとは到底認めることはできないし、他に被告の不当労働行為意思を推認するに足る事実を認めるべき証拠は見当らない。
従って、本件解雇は不当労働行為であって無効であるとの原告の主張は理由がない。
2 解雇手続の不履行
(人証略)の各証言によれば、昭和四六年ころ、訴外組合の組合員である奥村栄善が仕事の途中でその妻をメーターを倒さずに走ったということと、河野被告営業課長と口論していた際、仲裁に入った末木被告副社長を突き飛ばしたことにより、被告は同人を解雇しようとしたが、原告を含む訴外組合の三役が同人を解雇しないよう陳情した結果、同人を二週間の出勤停止と副班長から平従業員への降格という処分に留めたことは認められるが、右のことのみをもって、被告が訴外組合の組合員を懲戒処分する場合、訴外組合と協議の上、その同意を得て決定することが被告と訴外組合との間の労使慣行として確立されているとまで認めることはできず、その他、右労使慣行の存在を認めるに足りる証拠はない。
また、(人証略)の各証言並びに原告本人及び被告代表者各尋問の結果によると、原告は、本件事故後、被告に対し、昭和五四年四月一九日に診断書を提出したのみであったところ、同年五月八日に至り、訴外組合の書記長を通じ被告に同月一〇日から出社したい旨連絡したこと、これに対し、被告は、明日原告から本件事故について事情聴取したい旨申し入れ、同月九日に被告代表者が原告から事情聴取したうえ、原告に対し、依願退職を勧告し、もし依願退職しないのなら解雇する旨申し渡したこと、また、その後、被告は、訴外組合とも話し合いを持ったうえ、同月二三日、原告に対し、本件解雇の通知をなしたことが認められる。右のような本件解雇までに至る経過に徴すると、被告は、原告に対し、弁解の機会をも与えていたものと認定しえ、かつ、他に本件解雇手続に本件解雇を無効たらしめるような瑕疵の存在を認めるに足りる証拠はない。
よって、原告の再抗弁2の主張も理由がない。
3 就業規則違反
被告の就業規則四〇条四項に被告が従業員を懲戒免職する場合、「予告期間をおかないで監督署長の認定を受け直ちに解雇する。」旨の規定があること及び被告が、本件解雇につき、労働基準監督署長の認定を受けていないことは当事者間に争いがない。
しかしながら、即時解雇する場合には、予告手当を支給しないかぎり、労働基準法二〇条一項但書、三項により行政官庁の除外認定を受けるための手続をふむ必要があるのであるから、右就業規則の趣旨は、懲戒解雇する場合は予告手当を支給しないで即時解雇する旨を規定したもの、すなわち、同法二〇条一項但書、三項の趣旨をそのまま規定したものであって、右条項の趣旨を超えて被告の懲戒解雇権を自制したものではないと解するのが相当である。
そして、右条項による除外認定は、解雇予告手当を支給しないで即時解雇することのできる同条一項但書の事由があることにつき、単に行政監督上の確認を受けることを意味し、右認定を経なくてもそのこと自体によっては、懲戒解雇は無効とはならないと解される。
従って、本件解雇の際、被告が労働基準監督署長の除外認定を受けていないからといって本件解雇が無効とはいえず、原告の再抗弁3も理由がない。
4 解雇権の濫用
(一) 原告は、被告就業規則四二条但書には、懲戒免職に該当する事由があっても情状によっては謹慎減給にとどめる旨の規定が存するから、原告の本件事故については、右但書を適用して原告を謹慎減給にとどめるべきであったのにもかかわらず解雇したものであって本件解雇は重きに失し、解雇権の濫用であって無効であると主張するので以下判断する。
(1) 原告は、まず、その理由の一つとして本件事故の態様、本件事故における原告の責任、本件事故により被告に与えた損害及びその他の影響は、いずれも軽微である旨の主張をし、(証拠略)並びに原告本人及び被告代表者各尋問の結果によれば、原告は、本件事故により、訴外共和運送株式会社に対し、同社所有のトラックの後部の破損の、訴外山梨総合高等職業訓練校に対し、同校東側囲障の破損の各損害を与えたが、いずれも示談が成立しており、また山梨県公安委員会から、昭和五四年五月二四日、九〇日間(後に講習を受けたことにより短縮されて四五日間)の運転免許停止処分を受けたものの、格別、新聞、テレビ等報道機関により報道されることが全くなかったため、被告の社会的信用を失墜したかどうかの点では大きな影響を及ぼしたものとは認められない。
しかしながら、(証拠略)、原告本人尋問の結果(一部)並びに被告代表者尋問の結果によれば、<1>原告は、昭和五四年四月一三日、群馬県高崎市で開催された自交総連関東ブロック協議会に出席し、その帰途の列車の中でウイスキーを飲みつつ、同日午後九時ころ、甲府に帰着し、その足で甲府駅北口近くにある被告本社に立寄り、被告取締役深沢正広らと二、三言葉を交したが、その際、右深沢は、原告の言葉の調子から、原告が酒を少し飲んでいると思ったこと、<2>原告は、翌一四日午前二時三五分ころ、帰宅するため、自己所有の自家用普通乗用自動車を運転して、甲府市中小河原町四〇四の一南甲府警察署前付近に至った際、同署前の道路の左端に寄せて非常駐車灯を点滅させて停車中の貨物自動車をその直前で認め、右にハンドルを切ったものの間に合わず、右貨物自動車右後部に衝突させ、さらに道路右側の山梨総合高等職業訓練校の金網の囲障に衝突させたが、原告の車は、右貨物自動車の後部に自車の屋根の部分を残し、右囲障に食い込む形で停止し、原告は、前頭部挫創等の傷害を負ったこと、<3>右現場付近は、見通しのよい直線道路で、南甲府警察署の電灯等で夜間でも比較的明るい場所であったが、原告が全くブレーキをかけた跡は認められなかったこと、<4>南甲府警察署で当番勤務していた同署警察官土橋正教は、衝突音を聞いて現場に駆けつけたところ、山梨総合高等職業訓練校の囲障の内側に立っていた原告を発見し、南甲府署に任意同行したが、足どりは、負傷している割には、しっかりとしていたものの、原告から酒のにおいを感じたこと、<5>右土橋は、南甲府署正門付近で原告にうがいをさせ、検知管によって飲酒量の検査をしたところ、呼気一リットル中二・〇ミリグラム以上という数値が出、次いで原告を一〇秒間直立させたところ、ふらつくことはなかったが、歩行検査しようとしたところ、その場に座り込んでしまったため、検査できず、原告をソファーに寝かせて名前等を質問したところ、名前、住所、職業及び車が自分の所有であることには普通の状況で答えたが、飲酒状況等その他の質問には答えず、またその際、原告の目は充血しており、顔面から約三〇センチメートル離れた位置で強い酒臭がしたこと、<6>同署係官は、原告が頭部を打撲していたことによる影響等を考慮して原告の本件事故について酒酔運転とせず、酒気帯び運転として甲府区検察庁に送致したが、同区検察庁検察官は、本件事故について酒酔運転として甲府簡易裁判所に略式起訴し、同裁判所裁判官は、前記二認定のとおり原告を罰金五万円に処し、原告も右略式命令に異議を申立てることなく罰金を納付したこと、<7>飲酒後、五時間経過すれば、ほとんどアルコールは体内から抜けること、<8>原告は職業運転手であり、その運転技術は極めて熟練しているものであること、以上の事実が認められる。このような本件事故の態様、特に原告の熟練した運転技倆にも拘らず、見通しのある道路でブレーキをかけることなく非常停車灯を点灯させて道路左端に避譲して駐車中の貨物自動車に衝突させているということに徴すると、原告は本件事故前飲酒により正常な運転ができない状態であったものと認めざるを得ない。
この認定に反する原告本人尋問の結果の一部は措信できず、他に右認定に反する証拠はない。
以上、本件事故により被告の社会的信用を失墜するという悪影響を及ぼしたものでなかったとはいえ、本件事故の態様からすれば決して軽微とはいえない。
(2) 次いで原告は、本件懲戒解雇は、他の懲戒事例との比較においても重きに失し平等性を欠くと主張し、<1>被告従業員奥村栄善が仕事の途中でメーター不倒行為を行い、また末木被告副社長を突き飛ばす行為を行ったが被告は、同人を二週間の出勤停止と副班長から平従業員への降格という処分にしたことは、前記三2認定のとおりであり、また、(証拠略)並びに被告代表者尋問の結果によると、<2>被告従業員五味勝男が昭和五三年一二月ころ、乗客を乗車させる際ドアで左足を負傷させ、右傷の手当のため甲府市宝一丁目所在の共立病院に行き、右乗客から治療する間待つよう言われたにもかかわらず、タクシー料金ももらわずその場から走り去り、さらに右乗客が、その件を会社に届出たところ、右五味は右乗客に暴言をはいたが、被告は、右五味に始末書を提出させただけで何ら処分しなかったこと、<3>被告と同業の山梨貸切タクシー株式会社の従業員唐沢輝弘は、昭和五〇年七月六日酒気帯び運転、業務上過失傷害、ひき逃げ事件を起こし、同月八日ころ新聞にも報道されたが、同社は、右唐沢を配置転換(運転手から工場勤務)したに留めたことは認められる。しかしながら、被告会社の右<1><2>の二つの事例のみでは、本件の場合と比較するのには、量的に不十分であり、また内容的にも適切な事例といえず、右二つの事例における被告の処置に比し、本件解雇が重きに失すると判断することはできない。また、右<3>の山梨貸切タクシーの例についても被告代表者尋問の結果によれば、右会社と被告とは会社の規模が違い、被告は右会社と異り、小規模で工場などを持っておらず、運転手からの配置転換をしようにも、その可能性が全くないことが認められ、本件の場合と軽重を比較するに適切な例とはいえないし、また昭和五三年の道路交通法の改正にみられるように、飲酒運転に対する処分が厳しくなるなど、世間一般の飲酒運転に対する見方は右事例の当時と本件当時と比べてより厳格になって来ていることなど公知のことであるから、本件解雇が右懲戒事例との比較において重きに失するとまで認めることはできない。
(二) 原告は処分に平等性を欠くとして、既に挙示したほか、訴外中込信吉にかかる事例をあげているけれども、主張自体からして昭和四七年二月ころの事例であって飲酒運転に対する世間一般の扱い方が厳しくなって来ていることからすると、適切な比較事例ではないばかりか、同事例の内容が本件に類似するものであるとするような証拠は見当らない。
そうすると、本件解雇は、解雇権の濫用に当り無効であるなどとは到底いえないから、原告の再抗弁4は理由がない。
四 結論
よって、その余の判断をするまでもなく、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 三井喜彦 裁判官 廣永伸行 裁判官 森宏司)